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加工硬化

塑性という言葉はあまり耳なじみがないかもしれませんね。
外部から力を加えたときに物質が変形し、その変形が力を取り除いた後も
永久ひずみとして物質に残るような性質のことを言います。
粘土に指を押し付けたときのような感じです。

ジュエリーに使われる金属はこの塑性を利用して加工、形作られていきます。
工業的に言うと、鍛造、圧延、転造、プレス、曲げ加工などといったところでしょうか。

そういった塑性加工を金属に対して行うと、金属の結晶の境界にすべり面が生じ、
その抵抗が大きくなってまた次のすべり面を生じるという動きが起きます。
その結果全体の抵抗が増して材料が硬くなります。
これを「加工硬化」といいます。
針金を一点で何度も曲げていると硬くなって折れますよね。 あれがそうです。

ジュエリーの制作時も、地金が硬くなって作業しにくくなることがあります。
そういう時には地金を加熱し、再結晶させることですべり面を減少させてまた柔らかくします。
これを「焼きなまし」といいます。

しかし、なまったままでジュエリーを仕上げてしまうと、塑性変形をおこしやすくなります。
つまり傷がついたり変形したりしやすくなるのですね。
そこで加工時にはある程度加工硬化した状態で仕上がるよう
焼きなましのタイミングを考えます。
また、地金表面を固い金属棒で擦ることにより、表面の硬度を上げたりします。


そうはいっても、限界を超えた力が加わると変形はしてしまうものです。
特にプラチナ合金は金合金ほどには「弾性」がないので長年指にはめていたリングが
指の形になじんでしまったりすることもあります。

一時的に大きな力が加わって変形すると、
変形量が少なければ元の形に戻すこともできますが、
あまりに大きな変形量で、留めていた宝石が外れてしまったりするとそれも難しくなります。

そういう場合には宝石を取り外して地金部分を再制作することで
ジュエリーを蘇らせることもできます。
このリングも大きく変形してしまったものからダイヤモンドを取り外して作り直したものです。
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ある程度「加工硬化」はさせてありますし、リング部分の厚さも取っておきましたので
今度は簡単には変形しないと思うのですが。


デザインと強度のバランスは難しいところです。

  by studio_argento | 2012-02-17 18:33 | ジュエリー

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